⑥相殺
相殺とは、例えば売主が買主に700万円の売掛金債権があり、
逆に買主も売主に対して500万円の債権を持っているような場合
(例:支給品や他の取引によるもの等)において、その債権債務を
対当額にて消滅させ、売主の債権を差し引き200万円にすること
を言います。
売主(700)−買主(500)=残り売主の債権(200)
相殺は、当事者間で合意のうえ、日常的に前述のような差し引き
により行われるものですが、緊急事態に片方の当事者が一方的に
差し引きして相殺を行うこともあります。
例えば前述の例で言えば、買主が倒産したような場合に、売主の一方
的な通知により双方の売掛金債権を相殺し、最終的に差し引き200
万円に売主債権を減らすようなことをします。
もしこの相殺が売主に認められていなければ、どうなってしまうでしょう?
買主は倒産してしまったので売主に対する700万円の支払いはできない
にもかかわらず、逆に売主は支払期日が来たら500万円支払わなけれ
ばならず、非常に売主にとって不利です。よってそのような不平等を避け
るためにこの相殺制度があり、倒産した取引先から売掛金を回収する
有効な手段として良く利用されています。
もう少し細かい条件をここで見てみましょう。
前述の例で言えば、相殺する側の債権(売主債権700万円)を自働債権
といい、相殺される側の債権(買主債権500万円)を受働債権と言います。
仮に、売主債権の支払期日を3/1(=買主は3/1までに支払わなけれ
ばならない)、買主債権の支払期日を6/1(=売主は6/1までに支払わ
なければならない)としましょう。
相殺を行うためには両債権が相殺され得る状態にあること(相殺適状とい
います)が必要要件とされ下記の条件を満たすことが必要です。
(A)自働債権と受働債権が存在していること。
(B)両債権が弁済期にあること。(=支払期限が来ていること)
但し、受働債権に関して言えば、弁済期に達していなくとも相殺する側
(=売主)が弁済期以前に支払う意志(期限の利益を放棄する意志)が
あれば差し支えません。上記の例で言えば3/1の時点では買主が支払
をしなければいけない期限はきていますが、売主の支払期限はまだ来て
いません。ですが早く相殺したいので、受働債権(=売主の債務)の
支払期限はきていなくても、その期限の利益を放棄して相殺することが
可能です。
さらに発展形を見てみましょう。
上記の例で買主が倒産したような場合はどうでしょう?
通常、売主としては悠長に自働債権(=買主の債務)が
弁済期になるまで待ってられません。(一方、前述のとおり
受働債権(=売主の債務)は自分で期限の利益を放棄する
ことができるので すぐ放棄できます)。
そこで期限の利益の喪失の特約条項の登場です。
この条項を設けることにより、自働債権が弁済期にあるか
どうかにかかわらずいつでも相殺できるようにしておくのです。
上記の例で言えば2/1に買主が倒産したら直ちに期限の
利益を喪失し、自働債権の弁済期が到来したことにしてしまう
のです(本来は3/1)。
この条項があることにより、相手方が倒産や不渡りなどの事態
に陥ったとしてもスムーズな債権回収をできるようにします
ただし、期限の利益を喪失させ、相殺適状の要件を満たしている
にもかかわらず、相殺ができないケース(例:両債権が差し押さえ
や質権設定をされたものであるケース)、もありますので注意が
必要です。
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