③所有権と危険負担
そもそも「所有権」と「危険負担」 とは何でしょう?
商品引渡の際の「所有権」と「危険負担」について、両者は同じ意味だと
思っている人が多いですが、それは間違いです。両者の違いを簡単に
書くと下記のようになります。
■所有権
物を支配する権利のこと。法律の範囲で自由に利用(使用・処分)できる
権利のことをいいます。
例えば売主から買主への商品の引渡は完了しているが、買主の支払が
完了するまでは依然として所有権は売主に残る(所有権留保といいます)
ような契約になっているときがあります。
この所有権留保の権利を売主が保有している場合、買主が代金を払わない
ときには売主は留保している所有権に基づいて、一旦買主に引き渡した製品
の取り戻しをする、といったようなことが可能になります。
■危険負担
例えば、商品納入後、受入検査が行われる前に売主・買主のいずれの
過失にもよらず商品が燃えてしまったような場合の決着をどうつけるか?
という点についての考え方を言います。
具体的には、燃えてしまった商品の対価を買主が支払うのかそれとも
売主が泣きを見るのか?ということになります。これについては法律上、
下記の2つの考え方があります。
(A)危険負担債務者主義
★ここでいう「債務」とは商品を納入する義務のことを言います。
つまり危険を負担するのは債務者=売主という訳です。
代金支払義務は消滅する。よって生じた買主は燃えてしまった商品
代金の支払をする必要はない。つまり危険(商品の消滅という損害)
の負担は債務者(売主)にかかることになる。
(B)危険負担債権者主義
★ここでいう「債権」とは商品を受領する権利のことを言います。
つまり危険を負担するのは債権者=買主という訳です。
代金支払義務は消滅しない。よって依然として売主は買主に
代金支払請求ができるので生じた危険の負担は債権者(買主)
にかかることになる。
民法は、特定物(A商品、B別荘と特定できるもの)に関する商品の権利
移転契約では債権者主義の立場を取り、それ以外では債務者主義の立場
を取っています。
ここから先が重要です!
上記の債権者主義の規定は強行規定ではありません!
当事者の合意で債務者主義に自由に変えられるのです!
よって実務上、売主の立場にいるときには、例えば「A商品の引渡後、
受入検査までに火災等の事故により商品に生じた損害は買主の負担
とする。」といった特約を付けて実質的には商品引渡後は債権者主義
の考え方に従い買主が危険負担するようにします。常識的に考えて
一端商品を納入してしまえば、売主がコントロールできない訳ですから
上記の特約はリーズナブルであると言えるでしょう。
以上のようなことから考えると、実務の上では(売主の立場からいえば)
所有権移転は遅ければ遅いほど、また危険負担の移転は早ければ早い
ほど、有利な契約条件になるということが言えますので(相手方の信用
度、取引関係、商品の特性等にもよりますが)契約交渉上できるだけ自分
に有利な条件を提示して交渉を進めて行きましょう。
(文例)
パターン①(買主有利)
商品の所有権は商品の引渡完了の時に売主から買主に移転し、
危険負担は商品の検査完了の時に売主から買主に移転する。
パターン②(売主有利)
商品の所有権は買主が商品の代金を支払ったときに売主から買主
に移転し、危険負担は商品の引渡完了の時に売主から買主に移転する。
パターン③(両者平等?)
商品の所有権は商品の検査完了の時に売主から買主に移転し、
危険負担は商品の引き渡し完了時に売主から買主に移転する。
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