■相殺
相殺とは、例えば売主が買主に700万円の売掛金債権があり、
逆に買主も売主に対して500万円の債権を持っているような場合
において、その債権債務を対当額にて消滅させ、売主の債権を
差し引き200万円にすることを言います。
相殺は、広い意味では当事者間で合意のうえ、日常的に前述の
ようなことを行うことを含みますが、狭い意味では片方の当事者の
一方的意思表示による相殺のことを意味します。
例えば前述の例で言えば、買主が倒産したような場合に、売主の
一方的な通知により双方の売掛金債権を相殺し、最終的に差し引き
200万円に売主債権を減らすようなことを言います。
もしこの相殺が売主に認められていなければ、どうでしょう?
買主が倒産してしまったので売主に対する700万円の支払いはできない
にもかかわらず、逆に売主は支払期日が来たら500万円支払わなければ
ならず、非常に売主にとって不利です。
よってそのような不平等を避けるためにこの相殺制度があり、倒産した
取引先から売掛金を回収する有効な手段として良く利用されています。
尚、前述の例に沿って言うと、相殺する側の債権(売主債権700万円)を
自働債権といい、相殺される側の債権(買主債権500万円)を受働債権
と言います。
相殺を行うためには両債権が相殺され得る状態にあること(相殺適状と
いいます)が必要要件とされ下記の条件を満たすことが必要です。
(A)自働債権と受働債権が存在していること。
(B)両債権が弁済期にあること。(=支払期限が来ていること)
但し、受働債権に関して言えば、弁済期に達していなくとも相殺する
側(=売主)が弁済期以前に支払う意志(期限の利益を放棄する意志)
があれば差し支えない。
債権回収を図る立場からすれば、契約書作成においてポイントになるのが
上記(B)です。
上記の例で買主が倒産したような場合は、通常、売主としては悠長に自働債権
が弁済期になるまで待ってられません(一方、前述のとおり受働債権は自分で
期限の利益を放棄することができるので問題ありません)。
従って期限の利益の喪失の特約条項を設けることにより、自働債権が弁済期
にあるかどうかにかかわらずいつでも相殺できるようにしておくことにより
スムーズな債権回収をできるようにします。
(下記例文及び④期限の利益の喪失参照)
(期限の利益の喪失) 買主または売主は下記の一にでも該当した場合は、
当然に期限の利益を喪失し、ただちに相手方に対して
債務を弁済しなければならない。
ただし、相殺適状であるにもかかわらず、例えば両債権が差し押さえ
や質権設定をされたものである場合等、相殺ができないケースもあります
ので注意が必要です。